
はじめに
訪問介護の現場では、日々の業務内容を記録する「訪問介護記録」が重要な役割を果たしています。この記録は、利用者様の生活状況や体調の変化を把握するためだけでなく、サービスの質を保証し、トラブルを未然に防ぐための重要な証拠資料となります。
しかし、実際の記録業務において「特になし」と記載されたり、空欄のままで提出されたりするケースが少なくありません。一見、「特に問題がなかった」という意思表示にも見えるこの表現ですが、実は介護現場ではNGとされることもあります。
本記事では、なぜ「特になし」が避けるべきなのか、そして空欄を埋めるための具体的なヒントをご紹介します。
なぜ「特になし」はNGなのか?
1. 利用者様の状態は常に変化している
どんなに安定して見える利用者様でも、日々の体調や気分、生活動作には少なからず変化があります。その微細な変化を記録することで、健康状態の悪化を早期に発見することが可能になります。
「特になし」と記載してしまうと、こうした小さな変化を見逃すリスクが高まり、結果として大きなトラブルにつながることもあります。
2. 第三者が読んでも理解できる記録が必要
訪問介護記録は、ケアマネジャーや他の職種とも情報共有するためのものです。「特になし」と書かれていると、何もしていないように誤解される可能性があり、サービス提供の透明性を損なう恐れがあります。
また、万が一事故やクレームが発生した場合、詳細な記録がなければ事実確認が困難となり、事業所やスタッフに不利益が生じることもあります。
3. 法的・制度的な責任
訪問介護は介護保険制度の下で行われており、記録の保存や内容の正確性は法令により定められています。「特になし」という記載では、適切なサービス提供の証拠として不十分と判断される可能性があります。

空欄や「特になし」を避けるための記録のコツ
1. 観察ポイントを習慣づける
日常的にチェックすべき項目をルーティン化することで、記録の内容が充実します。以下のような観察ポイントを参考にしてみましょう:
- バイタルサイン:体温、血圧、脈拍など(必要に応じて)
- 表情・様子:「笑顔が多かった」「少し元気がない様子」など
- 食事状況:「完食された」「食欲がなかった」
- 排泄状況:「排便あり」「排尿なし」など
- 会話の内容:「娘さんの話をされていた」「昨日のテレビについて話された」
- 身体の状態:「足のむくみが見られた」「皮膚状態は良好」など
2. 具体的な行動や会話を記載する
利用者様がどのような言動をされたか、どのような支援を行ったかを具体的に記述することで、「何もなかった」日でも内容のある記録になります。
例:「掃除中に『ありがとう』と何度も言われ、満足そうな様子だった」
「体位変換後に『楽になった』と話されていた」
3. 異常がなくても「正常」であることを記す
変化がない場合も、その旨を明確に書くことが大切です。
例:「食事摂取状況はいつも通り。異常なし」
「排泄の頻度、状態に変化は見られず」
4. 簡潔でもよいので継続的な記録を
長文で詳細を書くことが望ましいとは限りません。要点を押さえて、簡潔かつ継続的に記録することのほうが大切です。
例:「入浴介助実施。皮膚に異常なし。終始リラックスされた様子」
「洗濯支援実施。特に支障なし」
チーム全体での記録品質向上の工夫
1. スタッフ同士で記録の共有・フィードバックを行う
他の職員の記録を参考にすることで、自分の記録にも新たな視点が生まれます。記録例を共有し合い、改善点を話し合う時間を設けることも有効です。
2. 記録マニュアルやチェックリストの導入
事業所として「記録マニュアル」や「記入チェックリスト」を用意しておくと、記録の質にばらつきがなくなります。新人スタッフの教育にも役立ちます。
3. ICTツールの活用
近年では、スマートフォンやタブレットで訪問介護記録を入力できるアプリも増えており、記録の簡素化・効率化に貢献しています。入力補助機能やテンプレートを活用することで、「特になし」を避けた記録が可能になります。
まとめ
訪問介護記録は、利用者様の生活の質を守るため、そして事業所やスタッフ自身を守るためにも非常に重要なものです。「特になし」や空欄は、その大切な情報を放棄してしまうことに繋がりかねません。
記録の習慣や視点を見直し、小さな変化も見逃さず記録する姿勢を持つことが、介護の質の向上に繋がります。毎日の記録が、利用者様のよりよい生活と安心に結びついていることを忘れずに、丁寧な記録を心がけましょう。
